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オーナーチェンジ物件は、購入した翌月から家賃収入が入るのが最大の魅力です。しかし「入居中」ということは、買主から見れば「部屋の中を一切確認できない」ということでもあります。
この記事で紹介するのは、買う場面に立ち会った物件です。ただし買主は私ではありません。友人が東京都墨田区の中古3LDKを買うときに、物件を探し出したのも購入の判断に付き合ったのも私でした。友人は海外にいることが多く、引き渡しから7年経った今も、その部屋の対応窓口は私が担っています(記事にすることは本人の了承を得ています)。この記事では、買う側のリスクを並べるだけでなく、それが何年後にどう表面化するかまで書きます。

オーナーチェンジ物件を買う側が背負うリスクの全体像
どのリスクも「入居者がいる」という一点から派生していて、確認できるのは購入前に限られます。
| リスク | どこから生まれるか | 購入前にできる確認 |
|---|---|---|
| 室内の状態が分からない | 入居中で内見不可 | 設備表の有無、修繕履歴 |
| 入居者を選べない | 既存の賃貸借契約を引き継ぐ | 賃貸借契約書、入居時期 |
| 家賃を自由に変えられない | 契約条件がそのまま存続する | 現行賃料と周辺相場の比較 |
| 敷金の返還義務を引き継ぐ | 賃貸人たる地位の移転 | 敷金の額、精算方法 |
| 保証が引き継げるとは限らない | 保証契約は賃貸借契約とは別 | 保証会社との契約内容 |
| 住宅ローンが使えない | 自分で住む物件ではないため | 投資用ローンの金利・条件 |
| 自分では住めない | 入居者に退去を求められない | 普通借家か定期借家か |
| 売るときに価格が下がりやすい | 収益還元法で査定される | 賃料と利回りからの逆算 |
項目自体は他の解説記事にも同じ形で載っています。以下では、このうちいくつかが実際に形になった場面を見ていきます。
友人が買った「法人契約・入居10年」の部屋
購入当時、この部屋は非常に好条件に見えました。同じ入居者が10年住み続けており、契約名義は法人。引き渡し翌月から家賃が入り、空室期間はゼロです。入居期間の長さは住み心地の良さを裏付けており、法人契約なら支払い能力も安心だと考えました。
しかし今振り返ると、この「好条件」はほとんど推測に過ぎませんでした。10年住んでいることは契約書で分かっても、その10年で室内の設備がどう劣化したかは誰も知りません。法人契約であっても、その会社の実態までは書面に載っていません。
「入居中」とは安心材料ではなく、単に情報が遮断されている状態です。入居者がいるという事実は、良い知らせも悪い知らせも同じ壁の向こうに隠してしまいます。
設備表がないまま買うということ
通常の中古マンションの売買では、給湯器やエアコンなどの状態を記録した「設備表」を添えます。買主はこれを見て、引き渡し後の修繕コストを予測します。
しかし、この物件には設備表がありませんでした。10年以上入居者がいるため売主すら室内に入れず、書きようがなかったのです。友人は給湯器もエアコンも設置時期すら分からないまま買い、私も反対しませんでした。
7年後、エアコンが壊れた
購入から7年目の夏、入居者から「エアコンが動かない」と連絡が入りました。海外にいる友人に代わり、窓口の私が急いで業者を手配しました。真夏のため相見積もりを取る余裕もありません。
費用は約15万円。経年劣化による故障は貸主負担となるため全額持ち出しです。設備表があれば設置年から交換時期を予測し、事前に資金を準備できました。このとき買主が失っていたのは15万円というお金ではなく、「出費のタイミングを見通す手段」でした。
これは売る側にとっても同じです。私自身がオーナーチェンジで売却した際も、室内の確認ができないため「設備表を添付しない特約」を結びました(マンション売却の体験談)。売主の「保証できない弱み」は、買主の「知らされないリスク」としてそのまま表れます。
内見できない物件で、買主は何を見るのか
室内を見られないなら、友人の購入判断で代わりに確認したのは次の4点です。
- 入居者の属性(誰が借りているか)
- 入居時期(いつから住んでいるか)
- レントロール(賃料・敷金・契約期間などの一覧)
- 内装・設備の修繕履歴(過去のメンテナンス記録)

これらはすべて書面で確認できる情報です。裏を返せば、書面になっていない室内の傷みや設備の不具合は、買主には一切届きません。
売る側でも、同じ資料を求められた
興味深いのは、自分が売主側になった際もほぼ同じ資料を求められたことです。賃貸借契約書、レントロール、家賃の入金履歴、管理費や修繕積立金の支払状況など、オーナーチェンジ物件の売却相場で提示した書類と一致します。
つまり、この取引で流通する情報はこれら数枚の紙だけです。それ以上の情報を得たいなら、仲介会社を通じて管理組合の議事録や大規模修繕履歴などを手繰り寄せて調べるしかありません。
なぜ安いのかを確かめてから買う
この部屋は、同じ建物内の同時期の売り出し物件と比べて1割強安い価格でした。いくらオーナーチェンジでも、同じ建物内でここまでの差が出るのは目を引きます。
理由を尋ねると明確でした。売主は不動産会社で、決算期を迎えており、在庫を素早く現金化したかったのです。すでに値下げした後だったため、こちらからの指値は1円も通りませんでしたが、安い理由に納得できたため、友人は購入を決めました。
「安すぎる物件には裏がある」とよく言われますが、決算期や相続など、物件の欠陥とは無関係な理由で安いケースも多々あります。問題は安いこと自体ではなく、安い理由が分からないまま買うことのほうです。理由を尋ねるだけで、多くの場合はここを切り分けられます。
売主が不動産会社の場合に変わること
売主が個人の場合と比べ、宅建業者(不動産会社)の場合は以下の2点が異なります。
1つ目は契約不適合責任の特約制限です。民法では、引き渡された物が契約内容に適合しないと買主が知った時から1年以内に通知しなければ、修補や代金減額を請求できなくなります(民法566条)。宅建業法40条は、業者が自ら売主となる売買で、この通知期間を「引渡しの日から2年以上」とする特約を除き、民法より買主に不利な特約を無効としています。無条件保証ではありませんが、個人間売買にはない歯止めがかかります。
2つ目は消費税です。土地は非課税ですが建物部分は課税対象となるため、事業者からの購入では建物価格に消費税が含まれます(詳細はオーナーチェンジ物件を売った費用の実額を参照)。契約書に本体価格と消費税額の内訳が分かれているかは、買う側でも見ておくところです。
「法人契約だから安全」は成り立たない
法人契約は社宅利用が多く滞納リスクが低いとされています。実際、この部屋の入居者も7年間一度も滞納していません。
しかし、私が保有する別のアパートでは逆の事件が起きました。法人契約の1室で半年以上家賃が滞納され、調査したところ契約名義の会社自体が実在しなかったのです。最終的には保証会社が全額補填し、裁判を経て明渡しに至りました。
結果として頼りになったのは契約上の法人名ではなく、保証会社でした。名義が法人だと分かったら、次に見るのは保証会社の有無と保証内容です。
引き継ぐのは物件ではなく「契約」
オーナーチェンジで購入するのは「部屋そのもの」というより、その部屋に紐づく「賃貸借契約」です。
入居者が引渡しを受けて住んでいる(対抗要件を備えている)物件が売買されると、入居者の承諾なしに貸主の地位が買主へ移ります(民法605条の2第1項)。ただし買主が「新しい貸主」として家賃を請求するには所有権移転登記が必要です(同条3項)。
また、敷金返還義務も買主が引き継ぎます(同条4項)。本物件では敷金1ヶ月分が代金から控除されました。購入時の支払額が減るため得をした気分になりますが、これは「将来退去時に返還するお金を預かった」だけに過ぎません。
保証会社はそのまま引き継げましたが、保証委託契約は賃貸借契約とは別物です。再契約や名義変更が必要な場合や引き継ぎ不可の場合もあるため、事前にチェックしてください。
長期入居は「安定」ではなく「硬直」
友人がこの物件を買ってから7年、入居者も家賃も変わっていません。空室にならず原状回復費用もかからないため収入は安定していますが、「家賃を見直す機会がまったくない」ということでもあります。
一方で、管理費・修繕積立金の増額や固定資産税の変動により、支出は年々増えていきます。収入が固定されたまま支出が増えれば、実質的な利回りはじわじわ低下します。
現在、次の更新時に家賃増額を打診すべきか検討中ですが、値上げ交渉が退去につながるリスクもあり、周辺相場との差と空室時のコストを並べて考えることになります。
持ち続けるか手放すかで迷うのは、この部屋に限った話ではありません。私自身が所有してきた4件について、それぞれ何を基準に判断してきたかは現役大家が語る不動産の持ち方・手放し方で整理しています。
小杉恵のひとこと
「入居者が10年住んでいる」と聞いたときの受け取り方は、購入前と7年経った今とで捉え方がガラリと変わりました。当時は「住み心地の良さ」に見えましたが、今では「7年間条件を見直せなかった」という記録にも見えます。現役大家としても空室を恐れるあまり長期入居に頼りがちですが、単なる入居年数だけでなく「今の市場相場と比べて適正か」まで見極める重要性を実感しています。
資金面のリスク
投資用物件の購入には住宅ローンを使えません。住宅金融支援機構のフラット35は、資金の使いみちを本人または親族が住む住宅の建設・購入資金と定めており、第三者に賃貸する目的の投資用物件には利用できないと明記しています。使えるのは金利がやや高めに設定された「投資用ローン」に限られます。
「住むと偽って低金利の住宅ローンを使う」行為は資金使途違反です。機構は定期的に居住状況を確認しており、投資用途への転用が判明した場合は借入金の全額一括返済を求めるとしています。
また当然ながら、入居者がいる以上は自分や家族が住むこともできません。将来的な自家保有を考えているなら、オーナーチェンジ物件は対象から外すべきです。
買うときのリスクは、売るときに出る
ここまでのリスクは、保有している間はそれほど痛みを感じません。家賃が入っているからです。表面化するのは、売ろうとしたときです。
賃貸中のまま売却する場合、査定額は収益還元法で算出されます(オーナーチェンジ物件の売却相場)。7年間家賃を上げられなかったのなら、7年前の家賃水準で評価されます。
入居者がいる状態の買主は投資家に限定されるため、価格交渉で優位に立ちにくく、かといって空室を作ることもできません。売却費用についてはオーナーチェンジ物件を売った費用の実額にまとめました。時間をかけずに手放すなら武蔵小杉のマンション買取という出口もありますが、価格は仲介より下がります。
購入時に遮断されていた室内や契約の情報は、売却時に「価格の押し下げ」という形で7年分まとめて跳ね返ってきます。
購入前チェックリスト
購入前に必ず実行すべきアクションをまとめました。すべて契約前に確認・手配すべき項目です。
- 価格理由の確認: なぜその価格なのかを売主に理由を聞く
- 設備の履歴入手: 設備表がない場合、過去の交換・修繕履歴を請求する
- 家賃履歴の確認: レントロールと直近の家賃入金履歴で滞納の有無を確かめる
- 相場比較: 現行賃料が周辺の募集相場と比べて高すぎないか調べる
- 保証会社の引き継ぎ: 保証契約の内容と引き継ぎ可否を確認する
- 敷金と契約内容の確認: 敷金額、決済時の精算方法、次回更新時期を把握する

よくある質問
Q. オーナーチェンジ物件に自分で住めますか?
A. 入居者が退去するまでは住めません。貸主からの解約申し入れには「正当事由」が必要で、単に自分が住みたいという理由だけでは認められないのが一般的です。立ち退き料を支払って交渉する方法もありますが、時間も費用も読めません。
Q. 入居者が長く住んでいる物件は優良物件ですか?
A. 住み心地が良い証拠にはなりますが、それだけで判断はできません。長期入居は「賃料を相場に合わせて値上げする機会がなかった」ことも意味します。現行賃料が周辺の募集相場と比べてどの位置にあるかを確認してください。
Q. 設備表がない物件は見送るべきですか?
A. オーナーチェンジ物件では設備表がないケースが大半で、選択肢から除外すると候補が一気に狭まります。諦めるのではなく、交換時期が分からない分の修繕費をあらかじめ見込むほうが現実的です。給湯器やエアコンは10年前後が交換の目安とされるので、そこを資金計画に入れておくと想定外になりません。
Q. 法人契約の入居者なら安心ですか?
A. 個人契約より支払いが安定しやすい傾向はありますが、契約者が法人であること自体は保証になりません。私自身、法人名義の契約で滞納が続き、その会社が実在しなかったという経験をしています。大切なのは法人名義という看板ではなく、万が一の際に保証会社が機能するかどうかです。
まとめ
オーナーチェンジ物件のリスクは、書類上のチェックリストを眺めているだけでは実感しづらいものです。しかし購入から7年後、真夏の突然のエアコン故障と、予期せぬ15万円の出費という形で目の前に現れます。
友人にとって、この購入が失敗だったとは思っていません。安い理由は確かめましたし、7年間滞納もなく家賃は入り続けています。ただ、買った時点で分かっていなかったことが、時間差で請求書や収支の目減りとして届く構造は、理解しておくべきでした。
購入前にできることは、書面で確認できる全てを洗い出し、確認できない部分は「分からないままである」と正確に認識しておくことです。「入居中」という状態を単なる安心材料と捉えるか、情報遮断のリスクと捉えるか。その認識の違いが、数年後の運用成果を大きく分けることになります。

