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私は過去に同じマンションを2度売りに出した経験があります。1度目は値下げをしても決まらず断念しましたが、2度目は提示された指値(値引き要求)を一旦断り、5ヶ月後にこちらが提示した金額で無事に成約しました。なお、本記事に登場する金額は実際の数字そのままではなく、交渉の構造や金額の規模感を分かりやすくお伝えするための近い価格帯のモデル値に置き換えています。

2度目の売り出しは、1度目とまったく違う条件から始まった
1回目の専任媒介契約が満了したあと一般媒介に切り替え、地元の仲介会社にも依頼した経緯は不動産会社の選び方で私が間違えたことに書きました。その後、一度部屋を賃貸に回したのち、同じ部屋をもう一度売りに出しています。ただし、今回は1回目とは全く異なる条件下でのスタートでした。
1回目は住み替えのために退去し、空室のまま実需(個人居住)向けとして売りに出しました。しかし値下げをしても買主が決まらず、最終的には賃貸へ切り替えることに(詳しい経緯は武蔵小杉 中古マンションが売れないを参照)。そして2回目は、入居者がいる状態のまま「オーナーチェンジ物件」として売り出しました。オーナーチェンジ物件の売却相場で書いたとおり、実需向けとは査定の前提そのものが異なります。
最大の違いは「内覧」の有無です。入居者が生活しているため、買主に見学してもらうことはできません。退去後に掃除や塗装などの準備に手間をかけた1回目に対し、2回目はそもそも「見せる部屋」が存在しない状態での売り出しとなりました(1回目の準備内容はマンション売却の内覧準備にまとめています)。
売り出しから11ヶ月、決まらなかった
2回目の売り出しから11ヶ月間、個人の買主は決まりませんでした。もちろん、その間何もなかったわけではありません。仲介会社経由で複数の買取業者から価格の打診がありました(買取の仕組みは武蔵小杉のマンション買取に記載)。
個人の買主からの問い合わせもありましたが、購入申込には至りませんでした。
「すぐに現金化する」という選択肢は11ヶ月間ずっとありましたが、私は業者買取を選ばず、待つほうを選びました。入居者がいて家賃が入り続けているかぎり、決まらない月が続いても収支が崩れることはなかったからです。
最初の申込価格は5,450万円
売り出して11ヶ月が過ぎた頃、ようやく初めての購入申込書が届きました。提示された金額は5,450万円(売り出し価格5,800万円から▲350万円・約6.0%の指値)です。書面には買主の希望価格と融資条件の記入がありました。
仲介会社の担当者と電話で話し合い、この金額を受けるべきか検討しました。事前に受けた査定3社の価格レンジは5,600万〜6,000万円で、5,450万円はその下限すら下回っています。査定レンジの内訳は査定額と成約価格のズレの通りですが、査定幅の外に出ているという理由で、この金額を受け入れないと判断しました。
そこで、こちらから「5,700万円」という対案を提示しました。これは売り出し価格(5,800万円)を全体に向けて下げたわけではなく、この買主との交渉の中で示した着地点です。最終的にこの1組目との話はまとまりませんでしたが、売り出し価格自体は5,800万円のまま据え置いています。
5ヶ月後、かつて断った「5,700万円」で成約
1組目との交渉が終わってから5ヶ月後、別の買主から申し込みがあり、最終的に5,700万円で成約しました。奇しくも、1組目にこちらから提示した着地点と全く同じ金額です。
値下げの割合で見ても興味深い共通点がありました。1回目の売り出し時に自分から値下げした際の減額率と、今回1組目が提示してきた指値の減額率は、ほぼ同水準だったのです。しかし、ほぼ同じ下げ幅でありながら、1回目は自ら価格を下げ、2回目は相手からの指値を一度拒否しています。
この対応の違いを生んだ要因こそが、「空室か、入居中か」という条件の違いでした。1回目の空室時は、内覧が入らない週も決まらない月も、毎月管理費や修繕積立金などの持ち出しが発生します。そのため自ら価格を下げるしかありませんでした。一方の2回目は入居者がいて、家賃収入が得られ続けています。そのため11ヶ月待とうが指値を断ろうが、収支が赤字になることはありませんでした。もし2回目も空室だったら、私は妥協して指値を受け入れていたかもしれません。
売買契約で交わした内容
売買契約は仲介会社の事務室で行われました。買主・私・仲介担当者の3名が同席し、所要時間は約2時間ほどでした。
手付金は売買価格の約3%に設定。この金額は仲介会社が買主側と事前調整して決めたため、私自身が直接交渉することはありませんでした。
契約書には「賃借人(入居者)に対する賃貸人としての地位および権利義務を買主へ引き継ぐ」旨が明記されています。入居者との賃貸借契約はそのまま存続し、貸主の名義が私から買主へ変更される形です。お預かりしていた敷金も、そのまま買主へ引き継ぐ規定としました。
オーナーチェンジ特有の「設備表不添付」という特約
今回の契約書には、もう一つ特徴的な特約がありました。それは「設備表を添付しない」という一文です。
一般的な中古マンションの売買では、給湯器・エアコン・換気扇などの有無や動作状況を売主が一覧で示す「設備表」を添えるのが通例です。しかし今回は、仲介会社があらかじめ用意したひな形通り、設備表が添付されませんでした。
理由はシンプルです。第三者が居住中のため、売主である私が室内に入って設備の状態を確認することができないからです。正常に動いているかどうかも分からない以上、一覧を作って保証することはできません。
その代わりに契約書では、引渡し日を境界とした「時間の線引き」で責任範囲を明確にしました。引渡し前に入居者から不具合の修繕請求があった場合は売主(私)が費用を負担し、引渡し後の不具合は買主の負担とする内容です。設備表という「現状の保証」ができない分、「いつまでの不具合か」という時期で責任の所在を分けたわけです。

なお、周辺環境の将来的な変化について売主が責任を負わない旨の条項も盛り込まれました。
賃貸中の物件を売却する場合、このように契約内容の常識がガラリと変わることを、今回の取引で実感しました。
契約から決済までの2ヶ月弱は「待つだけ」だった
契約から決済(引き渡し)までの期間は2ヶ月弱に設定されました。これは買主がローン本審査を受けるのに必要な期間を見込んだものです。
この間、売主側に必要な手続きは少なく、必要書類の準備に追われることもありませんでした。そして何より、この「待つだけの2ヶ月弱」の間も毎月の家賃収入は入り続けます。契約締結から決済までに至るプロセスにおいても、賃貸中であるメリット(強み)が大きく働いていました。決済当日に動いた具体的な金額についてはオーナーチェンジ物件を売った費用の実額にまとめています。
「入居中」という同じ条件が、強みにも弱みにもなる
今回の売却を通じて実感したのは、「入居者がいる」という一つの条件が、場面によって正反対の役割を果たすということです。
強みとなったのは価格交渉時です。家賃が入るため保有コストが相殺され、11ヶ月の停滞も指値の拒否も冷静に選択できました。焦らず強気の姿勢を保てたのは「入居中」だったおかげです。
一方で弱みとなったのは契約内容です。室内を確認できないため「設備表」を添えて現状を証明することができず、引き渡し直前までの不具合リスクを負う形になりました。
強みと弱みは別々に生じたわけではなく、同じ一つの条件が取引の異なる側面で光と影を作っていたのだと気づかされました。
小杉恵のひとこと
1回目の空室売却のときは、先が見えず正直かなり不安でした。でも2回目のオーナーチェンジ売却は家賃収入があったため、「ご縁があればいずれ良い方に巡り会える」と心に余裕を持って臨めました。指値を断った際も焦りや不安はありませんでした。
よくある質問
Q. 指値(値引き交渉)は必ず断るべきですか?
A. 物件の状況によります。私の場合は「提示額が査定レンジ下限以下だったこと」と「賃貸中で保有コストが相殺されること」が揃っていたため断る判断ができました。もし空室で維持費がかさむ状況であれば、同じ指値でも受け入れていたかもしれません。
Q. オーナーチェンジ物件なら設備表は必ず不要になりますか?
A. 必ずしも不要とは限りません。今回は添付なしの特約を結びましたが、不動産会社や物件の条件によっては作成を求められる場合もあります。事前に仲介会社へ確認することをおすすめします。
Q. 手付金の金額はどのように決まりますか?
A. 一般的には売買代金の5〜10%程度が目安とされています(詳細は武蔵小杉でマンションを売却する完全ガイドを参照)。今回は仲介会社と買主側で事前調整されたため売主の直接交渉はなく、相場よりやや低めの「約3%」で決定しました。
Q. 契約から決済まで「2ヶ月弱」は標準的ですか?
A. 買主のローン審査期間に依存するため、妥当な期間と言えます。買い手が現金購入の場合はさらに短縮されることもあります。
まとめ
2度目の売却では、1組目の指値を断ってこちらから提示した「5,700万円」という着地点で、5ヶ月後に無事成約に至りました。賃貸中につき「待つコスト」が相殺されたからです。一方で、契約面では室内確認ができないことから「設備表不添付」という特約を結ぶ必要がありました。同じ「入居中」という条件が、価格交渉では強い武器となり、契約条件では注意すべきポイントとなったわけです。
物件が「空室」か「賃貸中」かによって、選択すべき戦略も契約の中身も大きく変わります。
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