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築20年を過ぎたマンションを売ろうとすると、「築年数なりに下げないと売れない」と考えがちです。買い手の側も、築年数は値下げを求める理由として持ち出しやすい材料です。
溝の口で実際に成約した物件を築年数で並べてみると、その前提がそのまま当てはまらないことが分かります。築11〜20年と築21〜30年の成約単価が、ほぼ同じ水準に並んでいます。
ただ、この事実は「溝の口」という駅名でデータを取り出すと見えにくくなります。この記事では、データを取り出すときの落とし穴を先に片づけてから、築年数ごとの水準を見ていきます。

「溝の口」で絞っても、溝の口の相場にならない
使うのは国土交通省の「不動産情報ライブラリ」です。レインズに蓄積された成約データを国が匿名化して公開しているもので、誰でも無料で見られます。対象は2024年第1四半期から2026年第1四半期までに成約した中古マンションです。
溝の口の分を取り出そうとすると、2つのことに気づきます。
1つ目は、駅名が2つあることです。東急田園都市線・大井町線の駅は「溝の口」、JR南武線の駅は「武蔵溝ノ口」で、データ上も別々の駅名で記録されています。乗り換えでつながった実質ひとつの駅ですが、「溝の口」だけで絞ると、JR側の名前で記録された42件がまるごと抜け落ちます。2つの駅名の物件は同じ町に建っているものが多く、地区名と建築年の組み合わせが一致するものが15通りありました。立地の違いというより、表記の違いと考えられます。
2つ目は、区をまたいで、駅から離れているとみられる物件が混ざることです。溝の口駅の所在地は高津区ですが、「溝の口」を最寄駅とする取引は宮前区のデータにも40件あります。この40件は駅からの距離の欄がすべて空欄で、m²単価の中央値は21.7万円/m²と、駅全体の3分の1以下でした。4件に3件が築31年を超えています。駅から歩ける範囲の物件とは別の層とみられます。
2つの駅名を合わせると297件。そこから駅距離が空欄の46件(うち40件が宮前区側)を除いた251件を、この記事では「溝の口」として扱います。除く前と後で、m²単価の中央値は69.3万円/m²から74.1万円/m²に変わります。データの取り出し方によって、7%ほどの差が出ます。
| 区分 | 件数 | m²単価 | 成約総額の中央値 | 成約住戸の面積の中央値 | よくある単価帯 |
|---|---|---|---|---|---|
| 溝の口(2つの駅名の合計) | 251 | 74.1 | 5,500万円 | 75.0m² | 62.6〜86.5 |
| うち「溝の口」(東急) | 210 | 73.6 | 5,500万円 | 75.0m² | 62.5〜86.1 |
| うち「武蔵溝ノ口」(JR) | 41 | 77.8 | 5,500万円 | 75.0m² | 64.0〜88.2 |
| 高津区全体 | 698 | 67.9 | 5,000万円 | 75.0m² | 54.6〜82.4 |
| 高津区(溝の口を除く) | 447 | 63.3 | 4,600万円 | 70.0m² | 50.0〜80.0 |
| 武蔵小杉 | 604 | 133.8 | 9,000万円 | 70.0m² | 105.3〜157.1 |
※m²単価の単位は万円/m²。「よくある単価帯」は、m²単価を安い順に並べたときに中央の半分(全体の50%)が収まる範囲です。溝の口と高津区は駅距離が空欄の取引を除いた件数、武蔵小杉は中原区の全件です。親記事の川崎市のマンション売却では、高津区を駅距離が空欄の取引も含めた全件(776件・65.3万円/m²)で集計しているため、この表の高津区とは数字が異なります。
溝の口は、高津区のほかの地域より1.17倍高い水準です。高津区の取引の3分の1以上を溝の口が占めているので、高津区全体の数字は溝の口に引き上げられています。それでも溝の口の売主が「高津区の相場」を目安にすると、低めの数字を見ることになります。区単位の数字の読み方は、親記事にあたる川崎市のマンション売却で7区を並べて説明しています。
武蔵小杉とは1.81倍の開きがあり、同じ東急沿線でも水準は大きく異なります。溝の口の物件の目安に武蔵小杉の相場を使うと、大きく外れることになります。
築11〜30年が、ひとつの水準にまとまっている
251件を築年数で4つに分けます。
| 築年帯 | 件数 | m²単価 | 成約総額の中央値 | 成約住戸の面積の中央値 | よくある単価帯 |
|---|---|---|---|---|---|
| 築10年以内 | 32 | 93.5 | 6,350万円 | 70.0m² | 85.1〜108.5 |
| 築11〜20年 | 83 | 77.1 | 5,500万円 | 80.0m² | 62.8〜86.9 |
| 築21〜30年 | 73 | 76.8 | 5,500万円 | 75.0m² | 65.7〜87.5 |
| 築31年以上 | 63 | 63.3 | 5,000万円 | 80.0m² | 55.2〜71.3 |
※m²単価の単位は万円/m²。築年数は2026年時点です。当サイトは1つの区分に20件以上ある場合を掲載の目安にしており、築31〜40年だけで切ると12件になるため、築31年以上はまとめています。
築10年以内から築11〜20年へは、93.5から77.1へ下がります。ところが築11〜20年と築21〜30年は77.1と76.8で、差はほとんどありません。成約総額の中央値も、どちらも5,500万円です。築31年以上は63.3万円/m²です。
面積の列を見ると、どの帯も成約住戸の中央値が70〜80m²に収まっています。広さの違う部屋が混ざって平均が動いたわけではなく、同じようなファミリー向けの住戸どうしで比べた結果です。
念のため、同じ建物とみられる取引のまとまりが数字を動かしていないかも確かめました。データには建物名がないので、地区名と建築年が同じ取引を1つのまとまりとして数えています。築11〜20年で最も大きいまとまり(17件)を除くと、中央値は77.1から70.3に下がります。築21〜30年で最も大きいまとまり(9件)を除くと76.8から72.6です。どちらを除いても2つの帯の数字は近いままで、順番はむしろ入れ替わります。「築21〜30年のほうが高い」とまでは言えませんが、築20年を過ぎても大きく下がらないという形は、特定のまとまりに左右されていません。
一方で、築10年以内の32件は、うち11件が同じ地区・同じ建築年のまとまりです。これを除くと、築10年以内の中央値は93.5から106.2に上がります。この帯の数字は、1つのまとまりに大きく左右されています。
ほかの地域と比べると、落ち方の違いが見えてくる
築年数による下がり方が緩やかなのは、溝の口に特有の形なのか。高津区のほかの地域と武蔵小杉を、同じ築年帯で並べます。それぞれの築10年以内を100としたときの水準です。
| 築年帯 | 溝の口 | 高津区(溝の口を除く) | 武蔵小杉 |
|---|---|---|---|
| 築10年以内 | 100(93.5) | 100(88.0) | 100(150.0) |
| 築11〜20年 | 82(77.1) | 92(81.3) | 92(137.3) |
| 築21〜30年 | 82(76.8) | 71(62.7) | 62(93.1) |
| 築31年以上 | 68(63.3) | 53(46.2) | 45(67.5) |
※括弧内はm²単価(万円/m²)。件数は溝の口32・83・73・63件、高津区(溝の口を除く)57・94・171・125件、武蔵小杉176・324・66・38件です。
違いが出るのは築21〜30年の行です。溝の口以外の高津区では、築11〜20年から築21〜30年にかけて単価が23%下がります。武蔵小杉では32%下がります。溝の口はほぼ横ばいです。
ただし武蔵小杉の築20年以内は、再開発で建ったタワーマンションが中心です。築21年以上になると一般的なマンションの比重が増えるので、この32%には築年数による下落だけでなく、建物の種類の入れ替わりも含まれています。

築31年以上になると、溝の口以外の高津区は築10年以内の約半分、武蔵小杉は半分以下まで下がります。溝の口は6〜7割を保っています。幅があるのは、前の項目で見た築10年以内のまとまりを含めるかどうかの違いです。除いても約6割で、ほかの2つの地域より高いことは変わりません。
反対に、築10年以内から築11〜20年への下がり方は、溝の口のほうが大きくなっています。溝の口は約18%下がるのに対し、溝の口以外の高津区と武蔵小杉は8%前後です。築11〜20年の単価そのものも、溝の口(77.1)は溝の口以外の高津区(81.3)より低くなっています。溝の口が「どの築年でも値を保つ」わけではありません。緩やかなのは、築20年を超えてからの下がり方です。
なぜこうなるのかを、このデータだけで言い切ることはできません。確認できる範囲で言えるのは、溝の口で売れている住戸の性格が揃っていることです。251件のうち3LDKが160件(63.7%)、70〜90m²が165件(65.7%)を占めます。武蔵小杉の3LDKは38.4%です。古い建物でも広さと間取りがファミリー層の需要に合っていることは、理由の候補として考えられます。ただし、データで示せるのは「揃っている」ところまでです。
駅からの距離では、徒歩5分以内の35件が90.0万円/m²と、徒歩6〜10分(74.6万円/m²)や徒歩11〜15分(72.6万円/m²)を上回りました。ただし徒歩5分以内の住戸は面積の中央値が65m²と小さめなので、この差をすべて距離の効果と読むのは早計です。
築年数を理由にした値下げ交渉
小杉恵のひとこと
溝の口の物件ではありませんが、武蔵小杉のマンションを空室で売りに出していたとき、仲介会社を通じて買主から「築年数が若干古いから」と値下げを打診されたことがあります。そのときはすでに自分で価格を見直したあとで、相場並みか、やや安いくらいの金額にしていました。これ以上下げる予定はなかったので、お断りしました。結局、その売り出しでは個人の買主が決まらないまま、賃貸に切り替えることになりました。
築年数は、買い手が値下げを求めるときに持ち出しやすい理由のひとつです。誰にでも分かりやすく、売主の側も「古いのは事実だから」と受け入れてしまいやすい。
ただ、築年数がすでに価格に織り込まれているかどうかは別の話です。溝の口では、築21〜30年の物件が築11〜20年とほぼ同じ単価で成約しています。自分の物件の価格がその築年帯の水準に沿っているなら、「古いから」という理由だけで重ねて下げる根拠は、データの上では薄いことになります。
断るか応じるかを決めるのは、築年数そのものではなく、いまの価格が自分の築年帯の中でどの位置にあるかです。ただし、断れば売れるわけではありません。私の1回目の売り出しがそうだったように、価格以外の事情で決まらないこともあります。なぜ売れなかったのかを振り返った内容は武蔵小杉 中古マンションが売れないに、同じ物件を賃貸中に売り直したときに別の指値をどう判断したかはマンション売却の体験談に書いています。
溝の口で売るときに確認すること
まず、相場を調べるときは2つの駅名を両方拾います。不動産情報ライブラリで高津区を選び、最寄駅が「溝の口」と「武蔵溝ノ口」の取引を合わせて見てください。どちらか一方だけでは、同じ町の取引の一部が抜けます。
次に、駅からの距離の欄が空欄の取引は分けて考えます。宮前区側に住所がある物件で溝の口を最寄りとする取引は、駅からの距離が記録されておらず、単価も駅全体の水準から大きく外れていました。自分の物件が駅から歩ける距離にあるなら、その行を混ぜると相場を低く見積もるおそれがあります。
そのうえで、築年帯の表で自分の行を見つけます。溝の口は帯ごとの住戸の広さが揃っているので、その行のm²単価に自分の部屋の面積を掛ければ、大まかな目安になります。
検索画面の操作は武蔵小杉の一戸建て 売却で順を追って説明しました。戸建てを例にしていますが、種類の欄で「中古マンション等」を選べば手順は同じです。
最後に、複数社の査定額と突き合わせます。ここで見た数字は条件の違う取引の中央値で、階数や方角、室内の状態は含まれていません。提示された査定額をどう受け止めるかは、私の2件の実例を査定額と成約価格のズレで整理しています。自分の築年帯の数字を持っておけば、査定の場でも買主との交渉でも判断の拠り所になります。
まとめ
溝の口の成約251件は、m²単価の中央値が74.1万円/m²、成約総額の中央値が5,500万円でした。高津区のほかの地域より1.17倍高く、武蔵小杉とは1.81倍の差があります。
この駅の特徴は、築年数による下がり方が緩やかなことです。築11〜20年と築21〜30年はどちらも77万円/m²前後で、溝の口以外の高津区や武蔵小杉のように築20年を境に大きく下がる形になっていません。築20年台の物件を持っている人が、築年数を理由に最初から大きく値を引く必要は、データの上ではあまりありません。
ただし、この数字にたどり着くには取り出し方の手間がかかります。「溝の口」と「武蔵溝ノ口」の2つの駅名を合わせ、駅からの距離が記録されていない宮前区側の取引を分ける。そこまでやると、自分の築年帯に近い数字が見えてきます。
売却の進め方全体は武蔵小杉でマンションを売却する完全ガイドにまとめています。武蔵小杉を例にしていますが、査定から引き渡しまでの流れは溝の口でもおおむね同じです。
よくある質問
Q. 「溝の口」と「武蔵溝ノ口」で相場は違いますか?
A. 大きくは違いません。m²単価の中央値は東急側の「溝の口」が73.6万円/m²、JR側の「武蔵溝ノ口」が77.8万円/m²で、成約総額の中央値はどちらも5,500万円でした。JR側は41件と少ないうえ、東急側と同じ町の物件が多く含まれます。別の相場として扱うより、2つを合わせて見るほうが実態に近くなります。
Q. 築30年を超えたマンションは、溝の口でも売りにくいですか?
A. 築31年以上の63件は、m²単価の中央値が63.3万円/m²で、築10年以内の6〜7割の水準でした。溝の口以外の高津区では同じ築年帯が約半分まで下がるので、比べると値を保っています。成約住戸の面積の中央値も80.0m²で、ファミリー向けの広さの物件が実際に取引されています。
Q. 住所は宮前区ですが、最寄駅は溝の口です。この記事の数字は使えますか?
A. 駅から歩ける距離なら、この記事の数字が近いと考えられます。ただし、宮前区側の取引で確かめたわけではありません。データ上、宮前区側で溝の口を最寄りとする取引は40件ありましたが、すべて駅からの距離が記録されておらず、m²単価の中央値は21.7万円/m²でした。自分の物件と条件が近いかどうかは、所在地の町名と駅からの距離を確かめて判断してください。
Q. 高津区の相場を調べたら、溝の口より低く出ました。どちらを信じればいいですか?
A. 溝の口の物件なら、溝の口の数字を使ってください。高津区全体は67.9万円/m²ですが、そこには梶が谷や久地など、溝の口より水準の低い駅の取引も含まれています。溝の口を除いた高津区は63.3万円/m²で、溝の口(74.1万円/m²)とは1割以上の差があります。

