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「川崎市 マンション 相場」で検索すると、市全体を平均した数字が出てきます。しかし川崎市には7つの区があり、同じ広さのマンションであっても区が違えば価格は大きく変わります。この記事では、国土交通省が公開している成約データを「区別」「築年帯別」に細分化し、自分の物件がどの位置にあるのかを読み解く方法を解説します(売却の手順そのものには踏み込みません)。

川崎市の「平均相場」が売主の役に立たない理由
結論から言うと、川崎市全体の成約m²単価の中央値は67.1万円で、70m²に換算すると約4,700万円です。しかし、この数字を自分の物件の目安にできる売主はほとんどいません。
理由はシンプルで、最も価格が高い区と低い区で2.36倍の開きがあるからです。最も高い中原区の中央値をそのまま70m²に当てはめると約7,200万円になりますが、最も安い麻生区では約3,000万円にとどまります。同じ市内の同じ広さのマンションでありながら、4,000万円以上の差が生じるのです。
つまり市全体の平均値は中間付近の数字を示しているだけで、実在するどの区の水準とも一致していません。中央値に近い高津区や川崎区の売主であっても、市の平均は自分の区の数字ではなく、たまたま近い数値を通過しているに過ぎません。
この開きは偶然ではなく、川崎市の地理的な特徴と鉄道網の構造から生じています。川崎市は臨海部の川崎区から内陸部の麻生区まで細長く伸びており、7つの区がそれぞれ異なる路線に紐づいています。川崎区・幸区はJRと京急、中原区は東急東横線とJR南武線、高津区・宮前区は東急田園都市線、多摩区・麻生区は小田急線が軸となっています。

都心へのアクセス経路が違うということは、検討する買主にとって比較対象が異なることを意味します。田園都市線沿線で探している人が、小田急線沿線の物件を代替案にすることは基本的にありません。すなわち川崎市内には、行政上は1つであっても、住宅市場としては別々のものが並んでいるのです。「川崎市の相場」という単一の数字は、その別々の市場を1つに混ぜて平均したものです。
売主にとって必要なのは、平準化された数字ではなく自分の物件が属する市場の数字です。ここからは、それを段階的に絞り込んでいきます。
区の中央値も、そのままでは使えない
今回分析に用いたのは、国土交通省の「不動産情報ライブラリ」で公開されている成約価格データです。これはレインズに蓄積された実際の取引情報を国が匿名化して公開しているもので、誰でも無料で閲覧・ダウンロードできます。対象は川崎市7区の中古マンション、2024年第1四半期から2026年第1四半期までに成約した5,153件です。
ここに出てくる数字は、すべて実際に成約した価格です。ポータルサイトに並んでいる売り出し中の掲載価格とは別物で、掲載価格の方が高く出るのが普通です。両者を混ぜて考えると値付けを見誤ります。
なお、データの精度について1点補足があります。本データの専有面積は5m²刻みに丸められている一方、駅徒歩分数は1分単位で記録されています。ややこしいのですが、この精度は選択する「種類」によって異なり、戸建て(土地と建物)を選ぶと駅距離も5分刻みになります。ポータルサイトなどの1m²単位の表示とは精度が異なるため、双方の数字を単純に横並びで比較しないよう注意してください。
| 区 | 件数 | 中央値 | 70m²なら | よくある価格帯 | 市全体との差 |
|---|---|---|---|---|---|
| 中原区 | 1,149 | 102.7 | 約7,200万円 | 74.7〜137.5 | +52.9% |
| 幸区 | 664 | 77.1 | 約5,400万円 | 63.3〜98.5 | +14.9% |
| 高津区 | 776 | 65.3 | 約4,600万円 | 50.0〜81.2 | −2.7% |
| 川崎区 | 779 | 61.7 | 約4,300万円 | 46.2〜76.8 | −8.2% |
| 宮前区 | 878 | 54.8 | 約3,800万円 | 35.6〜77.3 | −18.3% |
| 多摩区 | 457 | 45.0 | 約3,200万円 | 30.7〜62.5 | −33.0% |
| 麻生区 | 450 | 43.5 | 約3,000万円 | 25.7〜62.3 | −35.2% |
※単位:万円/m²。中央値と「70m²なら」は同じ数字を単位を変えて並べたもので、m²単価に70を掛けた金額です。7区とも成約した住戸の面積の中央値は70〜75m²なので、70m²は実際の取引の真ん中に近い広さにあたります。自分の部屋の広さで見たいときは、中央値にその面積を掛けてください。
「よくある価格帯」は、m²単価を安い順に並べたときに真ん中の半分(全体の50%)が収まる範囲です。麻生区なら70m²換算で約1,800万円〜約4,400万円がこれにあたります。残りの半分は、この範囲より安い方に4分の1、高い方に4分の1が分かれています。
表を見ると中原区が突出していますが、この数字をそのまま「中原区全体の相場」と受け取るのは危険です。中原区の取引1,149件のうち、604件が武蔵小杉駅を最寄りとする物件だからです。区の取引の半分以上が1つの駅に集中しています。
試しに武蔵小杉を除いて中原区を集計し直すと、中央値は102.7万円から77.1万円まで下がり、幸区とほぼ同水準になります。「中原区全体が高い」というよりは「中原区内の武蔵小杉エリアが相場を引き上げている」というのが実態です。なお、武蔵小杉の相場については武蔵小杉のマンション相場を最新データで解説で、武蔵小杉の隣で水準がどう変わるかは元住吉のマンション売却で扱っています。同じ隣接駅でも、売られている住戸の広さ自体が違う例は新丸子のマンション売却にまとめました。
同様の偏りは他の区でも見られます。表の「よくある価格帯」を見ると、麻生区は25.7万円〜62.3万円と、上下で約2.4倍の幅があります。同じ区の中でこれだけ開くということは、区の中央値だけを見ていても、自分の物件がその幅のどこに位置するのかは判断できないということです。
区の中は、さらに駅によって分かれます。ただしそれは駅ごとに見ていく必要があり、この記事の範囲を超えます。ここでは、区より細かい軸をもう一つ入れるだけで見え方がどう変わるかを先に確かめます。
区 × 築年帯で見る
区の数字に築年数を掛け合わせた数値が以下の表です(縦軸:区、横軸:築年帯)。
| 区 | 築10年以内 | 築11〜20年 | 築21〜30年 | 築31〜40年 | 築41年以上 |
|---|---|---|---|---|---|
| 中原区 | 137.8 | 124.3 | 78.6 | 69.7 | 51.4 |
| 幸区 | 98.5 | 85.2 | 71.3 | 58.9 | 44.4 |
| 宮前区 | 93.8 | 76.0 | 57.2 | 43.6 | 30.0 |
| 高津区 | 90.0 | 78.8 | 64.0 | 46.5 | 50.0 |
| 多摩区 | 84.0 | 57.3 | 47.7 | 37.3 | 27.1 |
| 川崎区 | 73.3 | 70.0 | 55.0 | 42.5 | 40.0 |
| 麻生区 | 71.4 | 65.9 | 49.4 | 30.5 | 21.8 |
※単位:万円/m²(築年数は2026年時点)。どのマスも20件以上の成約データに基づいています。この表は30m²以上の住戸に限って集計しています。築30年を超えたあたりから投資用のワンルームが混ざり始め、住むための住戸とは別の価格帯で取引されるためです(中原区の築31〜40年では131件中51件がこれにあたりました)。前の区別の表は全件で集計しているので、母集団が違います。総額の目安は、自分の区と自分の築年帯が交わるマスの数字に、自分の部屋の面積を掛けた金額です(70m²で78.6なら約5,500万円)。
この表は縦と横の両方向に読めます。そして、どちらの方向にも無視できない大きさで動きます。
横方向(築年数)を見ると、同じ区内であっても築10年以内と築41年以上では、価格差が最も少ない高津区で1.80倍、最も大きい麻生区では3.27倍の開きがあります。
縦方向(区)を見ると、同じ築年帯で7区を比較した場合の格差は1.65倍〜2.36倍となっています。
つまり、区だけを見ても、築年数だけを見ても、片方の軸では自分の位置は決まりません。築年帯を揃えて比較しても、区の間には約2倍の差が残ります。例えば幸区の築21〜30年(71.3万円)と、麻生区の築10年以内(71.4万円)はほぼ同等です。市内上位の区の「築古」と、最安区の「築浅」がm²単価で並ぶ計算になり、築20年ぶんの差が、区の違いで打ち消されています。どちらか一方の軸だけでは不十分であり、両方を掛け合わせて初めて適正な立ち位置が把握できます。
また、表を横に追うことで「価格の落ち幅」も確認できます。中原区は築10年以内から築11〜20年への落差はなだらかですが、築21〜30年に入ると大きく下落します。麻生区の場合は築21〜30年から築31〜40年にかけて一段深めの落ち込みを見せます。下落のポイントは区によって異なるため、「築20年を超えると下がる」といった一般論を鵜呑みにせず、自分の区のデータがどこで折れているかを確認することが重要です。
具体的に70m²の物件へ換算すると、この影響がより明確になります。中原区の築11〜20年なら約8,700万円ですが、同じ中原区でも築31〜40年では約4,900万円となり、築年帯が2つズレるだけで3,800万円動きます。
なお、この表の中で1箇所だけきれいな右肩下がりになっていない部分があります。高津区の築41年以上(50.0万円)が築31〜40年(46.5万円)を上回っている点です。集計方法を変えても再現するため、偶発的なブレではありません。
高津区だけを取り出して中身を確かめました。築41年以上の113件のうち44件が溝の口駅を最寄りとしており、区の中心部に固まっています。一方の築31〜40年は最寄り駅がばらけていて、駅からの距離が記録されていない物件の割合も倍以上あります(20.4%対8.8%)。住戸の広さをそろえて比べても逆転は残るため、部屋の広さの違いによるものでもありません。古い分譲ほど駅の近くに建っていて、後から開発された物件ほど外側へ広がった、という順序がそのまま数字に出ている可能性があります。ただしこれは件数の分布から読み取れる範囲の推測で、データがそう書いているわけではありません。築年数という軸も万能ではなく、それだけでは説明のつかない区がある、という事実は変わりません。
結論として、川崎市全体の平均値はもちろん、区の中央値もそれだけでは使えず、同じ区の中でも築年帯で1.8倍から3.3倍動きます。売主が見るべきなのは、市でも区でもなく、自分の区と自分の築年帯が交わる、この表のたった1つのマスです。
自分の物件の位置を自分で調べる
ここまでの数字は、すべて不動産情報ライブラリから誰でも取得できます。地区名まで絞り込めるので、この記事の表より細かい条件で自分の物件に近い取引を探すこともできます。
検索画面の使い方とCSVの取り出し方は、成約データの調べ方をまとめた武蔵小杉の一戸建て 売却の記事で手順を追って説明しています。戸建てを例にしていますが、操作そのものはマンションでも同じです。ここではマンションを調べるときだけに関わる違いを4つ挙げます。
- 「種類」項目は「中古マンション等」を選びます。戸建てを調べるときの「土地と建物」とは別の選択肢です
- m²単価は土地面積ではなく専有面積で割ります。取引価格を面積の列で割るだけです
- 駅からの距離は1分単位で入っています。戸建てのデータでは5分刻みになるため、同じサイトでも種類によって精度が違います
- 同一マンション内から複数の取引事例が該当する場合がある(階数や方角は記録されないため、同一マンション内でもm²単価にばらつきが出る)
特に4つ目のポイントには注意が必要です。自分のマンションの過去成約事例が数件見つかったとしても、その中央値がそのまま自分の部屋の価値を表すとは限りません。低層階・北向きの部屋と、高層階・南向きの部屋が同じデータ内に混在している可能性があるためです。
条件の絞り込み具合はデータ件数とのバランスで判断してください。地区名まで指定すればより近い事例に絞り込めますが、集計期間を2年程度に区切ると該当件数が数件まで減ってしまう場合があります。極端に少ないサンプル数は1件の特殊事例によって数値が揺れやすくなるため、10件を下回る場合は対象期間を伸ばすか、地区単位から「区単位」へ戻して分析する方が数値が安定します。
中原区で売ったときに見えたこと
私が売却したのは中原区、その中の武蔵小杉です。この記事の表で中原区の中央値を押し上げている604件、その側に自分がいました。ここからは表を作った側ではなく、表に乗った側から見えたことを書きます。以下の金額は実際の数字そのままではなく、近い価格帯のモデル値に置き換えています。金額の差の大きさを正確に示すことを優先し、絶対額は伏せています。
小杉恵のひとこと
自分の部屋を売りに出す前、大手3社に査定を依頼しました。同じ部屋を同じ時期に見てもらったのに、提示された金額は5,600万円から6,000万円まで開いていました。幅にして400万円です。中には明らかに低い金額を出してくる会社もあり、その差は決して無視できるものではありませんでした。仮に1社だけに依頼していたら、その金額を自分の物件の相場だと受け取っていたと思います。
ここで開いた400万円は、1つの部屋を1つの時期に見た3社の幅です。前の表の「よくある価格帯」が示しているのは、条件の違う何百件もの取引が散らばった幅なので、両者は別物です。ただし出どころは同じで、どちらも同じ区・同じ築年帯の中に価格の幅があることから来ています。その幅のどこを根拠に置くかで査定額は変わりますし、不動産会社によって参照する事例が違えば、提示される金額も違ってきます。
もうひとつ、この記事の表について書いておかなければならないことがあります。私の1回目の売却は、査定レンジの下限とほぼ同じ金額まで価格を下げても成約しませんでした。半年以上かけても個人の買主は決まらず、最終的に賃貸へ回しています。表の中の位置は「その価格帯で成約した取引が実際にあった」という記録であって、自分の部屋がその価格で売れる保証ではありません。なおこの1回目は数年前の出来事で、この記事が集計した期間には入っていません。
査定額と実際に成約する価格との乖離については、査定額と成約価格のズレで解説しています。
川崎市で売却がつまずく3パターン
相場の位置が分かっても、そこから先で止まることがあります。よくあるのは次の3つです。相場の見方とは別の問題なので、この記事では触れるだけにとどめます。該当するものがあれば個別の記事を読んでください。
1. 売り出したが反響がない:
価格設定だけが原因とは限りません。掲載の見え方、内覧の準備、売り出す時期など、複数の要因が重なっていることが多く、順番に切り分けていく必要があります。値下げに踏み切る前に確認しておきたいことは武蔵小杉 中古マンションが売れないにまとめています。
2. 住宅ローンが残っている:
売却価格が残債を下回ると、差額を自己資金で用意しないと抵当権を外せず、引き渡しができません。この記事の表で自分に当てはまるマスを見て、残債との関係が気になった場合は、実際に残債を抱えたまま売り出した記録が住宅ローン残債ありのマンション売却にあります。
3. 人に貸したまま売りたい:
賃借人がいる状態での売却は、買主が実際に住む人ではなく投資家になるため、価格の決まり方そのものが変わります。今回のデータは居住用と投資用を区別していないため、この表の数字をそのまま当てはめることはできません。オーナーチェンジ物件の売却相場を参照してください。
まとめ
川崎市のマンション相場は、市全体の平均で語ると実在しない数字になります。区に分ければ一歩近づきますが、中原区のように区の中の1駅が半分以上を占めるケースがあり、区の中央値もそのままでは使えません。そして同じ区の中でも、築年帯が変われば1.8倍から3.3倍動きます。
自分の物件の位置を掴むには、区と築年帯の両方で絞り込んだ1つのマスを見ることになります。この記事の表はその出発点として使えますが、地区や駅まで絞ればもっと近い数字が取れます。数字の出どころも取得条件もこの記事に書いたとおりなので、同じ手順をたどれば誰でも同じ表を作り直せますし、四半期が進めば最新のデータで更新することもできます。
相場の数字は、覚えるものではなく自分で確かめるものです。市の平均という一つの数字を信じるより、自分の条件で絞り込んだ数十件を眺めた方が、値付けの判断はしやすくなります。
相場の位置が見えたあと、実際に売却へ進む場合の流れは武蔵小杉でマンションを売却する完全ガイドにまとめています。
よくある質問
Q. 川崎市で最も相場が高いのはどの区ですか?
成約m²単価の中央値で見ると中原区(102.7万円/m²)がトップです。ただし中原区の取引事例のうち52.6%が武蔵小杉駅周辺に集中しており、同駅周辺を除外すると77.1万円/m²まで下落して幸区と同水準になります。したがって「中原区全体が高い」というよりは「武蔵小杉エリアが突出して高い」と認識するのが実態に近いです。
Q. 掲載価格と成約価格、どちらを目安にすべきですか?
売主が値付けの基準にするなら成約価格です。ポータルサイトに並んでいる掲載価格は「まだ売れていない価格」です。売れ筋の物件ほど早く一覧から消えるため、残っている物件の方に価格が強気なものが偏ると考えられます。この記事の数字はすべて成約価格ベースです。
Q. 築年数が古いマンションは売れませんか?
売れないわけではなく、需要のある価格帯へとシフトします。今回の集計データでも、築41年以上の成約事例は市全体で780件確認でき、全7区すべてで20件以上の売買が成立しています。ただしm²単価は築10年以内と比べて区によって1.8倍から3.3倍の差がつくため、築浅物件と同じ感覚で強気の値付けをすると売れ残るリスクが高まります。
Q. 不動産査定は何社に依頼すべきですか?
何社が正解という数字はありませんが、同一の区・築年数であっても成約価格には相応の幅が存在します。1社のみの査定額では、その提示額が相場帯の「高い部類」なのか「低い部類」なのか客観的に判断できません。適正な相場感を掴むためにも、複数社に依頼して提示額や査定根拠を比較検討することをおすすめします。なお、会社の選び方そのものはこの記事では扱っていません。

